読むのも書くのも暇な人

考えていることや読んだものについて書いていきます。

塩を食う女たち

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 わたしにとって、大切な一冊。

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 わたしたちがこの狂気を生きのびることができたわけは、わたしたちにはアメリカ社会の主流的な欲求とは異なるべつの何かがあったからだと思う。アメリカ的な病ともいうべき物質主義と鬱病に、わたしたちはまだ一度も屈服したことがない。物はいくら所有したって足りない。貧困のどん底にあるような黒人たちのくらしの心を占めたのは物への欲求ではなく、何かべつのことだった。多くの黒人にとって、それは名付けようもないもの。指さして示して、ほら、これだ、ということができないもの。人びとはそれを宗教的偏見だとか、フードゥーとかヴードゥーとかいろいろにいうわけだけど。とにかく、わたしたちにはある種べつの知性を理解する能力がある。

 ただし体験を言語化する言葉が見つからないことはしばしばあるのだけれど。

 作中に出てくる、作家であり、運動家でもあるトニ・ケイド・バンバーラの言葉。心の底にいつも眠っているうめきが言葉になるのなら、こんな内容なのかもしれない。そういう言葉がたくさん書いてあって、水色のアンダーラインを引いてある。