読むのも書くのも暇な人

考えていることや読んだものについて書いていきます。

変なおじさん

 小学校2、3年生の頃だった。母が夜に家を空ける用事ができ、父方の祖母が私たち姉妹の面倒をみにきてくれた。祖母は昭和一桁生まれだったはずだ。田舎の古い家からほぼ出たことがないであろうおばあちゃんが家にいて、不思議な気持ちがした。

 

 祖母が作った夕食は、具なしのクリームシューをご飯にかけたもの。しかも、ルーを2倍量にしてあるのか、塩気ががつんと効いていた。初めて見る食べ物だったけれど、大好きに決まっている。なにも聞かずに私の心を打ちぬく料理を作ってくれるなんて。おばあちゃんは魔法使いなのかと驚いた。

 

 食後は、あるいは食中だったかもしれない。母が固く、固く、本当に固く禁じていたお笑い番組を見せてくれた。画面の中のコメディアンに合わせて「変なおじさん」を祖母が踊りだした時は唖然とした。大人が、本当ならこれを諫めるはずの大人が、しかもおばあちゃんが踊っている。私も妹も、ゲラゲラ笑いながら踊り狂った。

 

 翌朝、祖母はアップライトのピアノの足の方にちょこんと座り、そこに映る自分の姿を見ながら身支度をしていた。りすが大きな木の根っこにいるみたいだった。帰ってきたであろう母が顔をしかめながら「洗面所に鏡があります」と言ったのに対し、「ちょうどいいは!」と祖母が言った。ずいぶん時間がたってから「合理的」というのはこういうことなんだなと気づいた。

 祖母が帰ってからが大変だった。ゆうべの鍋を覗いた母が絶叫した。「これはいったい何!? 野菜は?」そして私たち姉妹が覚えたての踊りを楽しむのを見て、怒り狂った。罰なのか偶然なのかはわからないけれど、そこからしばらく、父方の祖父母の家には連れて行ってもらえなくなった。むろん、祖母が家にくることは一度もなかった。

 

 貧しくて、ろくに学校にも通ってなくて、バカにされることも多い人生だったと思うけれど、私はこの祖母が一番好きだ。どんな親でありたいかと考えたとき、祖母のようでありたいと願う。