読むのも書くのも暇な人

考えていることや読んだものについて書いていきます。

すべてがFeになる

 近所のくねくね曲がった道の途中に、猫のひたいほどの古道具屋がある。安くて渋い陶器が並んでいて、不意打ちに美術品が座っている。壁には絵。ひとつ一つ眺めてから、茶碗か醤油皿か小鉢を買って、毎日使う。たまの密かな楽しみだ。

 

 昨日、古道具屋の中で、手のひらに載るくらいの鉄の立方体を見つけた。ルービックキューブのようなフォルムで、全体的にはマットな質感なのだけれど、上の4分の1くらいに艶っぽい加工がしてあって、なんともいえない品のよさを感じた。

 

 思わず店主に声をかけると、現在美術作家の彫刻作品だそうで、家賃2、3ヶ月分くらいの値段が貼られている。どうしても欲しくて、思い切って購入したんだそうだ。

 

 アートには本当に疎いのだけれど、金属を使った彫刻作品はとげとげしたものが多い気がする。その中で、このずっしり感はめずらしい。このキューブになって、店内を昼も夜もずっと観察してみたいなと思った。

 

 家に帰ってからも、錆びないのかな、とか、触ったら冷たいのかな、とかぼんやり考えてしまって、鉄の歴史について本を読んだりした。

 

 いい作品は、あるだけで神々しく、それを前に他者と語り合うだけで胸の中に満ちるものがある。そして、お土産までくれる。