読むのも書くのも暇な人

考えていることや読んだものについて書いていきます。

思い出

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 血はつながっていないのだけれど、実の娘のようにかわいがってくれた人たちがいる。遊びにいくと、おばちゃんが食べきれないくらいご飯やお菓子を出してくれた。おじちゃんはいつもニコニコしていて、「3ちゃん(わたし)はすばらしいな〜」とほめてくれる。おばちゃんは「そんなの当たり前だべ〜」と言って「3ちゃんは賢いしめんこい(かわいい)し、女の子はやっぱりいいな〜」とその何倍もほめてくれる。

 

 食べるのに飽きて二階に行くと、お兄ちゃんたちの漫画がたくさん置いてあるので読む。あだち充原秀則手塚治虫川原泉いしかわじゅんなどを夢中になって読んだ。父の転勤で遠くに引っ越すことになり、お別れの挨拶に行った時、ブラックジャックが置いてあった。怖いもの見たさで読んでやめられなくなり、あまりのグロテスクさに泣いてしまった。わたしの両親は「最後なのに泣くなんておかしい」と責めてきたが、おばちゃんは「3ちゃんは悪くない、こんな漫画を置いてある息子が悪いから叱っておくから」と慰めてくれた。

 

 距離が離れてもおばちゃんは優しくて、いつもかわいい洋服や靴を選んでくれ、漫画を買ってくれた。お兄ちゃんたちも遊びにきてくれて、リカちゃんやシルバニアのお洋服、うさぎのぬいぐるみなど女の子が喜ぶものをくれた。大学に入った時に、アニエス・ベーのリュックをもらってびっくりした。実の親は絶対に欲しいものを与えてくれないし、自分も自分の欲しいものがよくわからないのに、どうしてこの人たちにはわかるんだろう、と思った。大事にされて、とても幸せだった。中学生の時に預かってもらったこと、実母とのけんかで家出した時に探しにきてくれたおばちゃんが泣きながら抱きしめてくれたこと、それも忘れられない。

 

 いろいろな事情があり、生きてはいるけれどもう会えない世界に来てしまった。お互いを守るために自分で決めたことなので、後悔はない。ただ、悲しすぎて思い出を振り返ることすら自分で禁じていたことに気づかされた。見えるところに飾り直して、自分の支えにしたいと思う。実の親からもらえなかった愛情をたくさん与えてくれる人たちに出会えて、生き延びられてよかった。