読むのも書くのも暇な人

考えていることや読んだものについて書いていきます。

恐るべき子供たち

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 萩尾望都神の漫画を読んだので、こちらの翻訳も読んでみようかな、と買ってみる。

 

 本当は大学時代、これを持っていた。というか、預かっていた。わたしの大学の同級生が、何かのつながりで出会った他大の人からこの本を借りていた。でも、卒業前の忙しさで、なかなか返せないという。たまたま、わたしの就職内定先の同期が、この本を貸してくれた人と同じ大学というのを知った。それで、借り主→わたし→同期→持ち主と経由して返して欲しいと半ば強引に押し付けられたのだ。

 

 「いいよ」と安請け合いしてしまったのか、Noを言える雰囲気でなかったのか、あまり覚えていない。でも、当時はわたしはひとかけらもも余裕がなくて、卒業、就職、新人時代の慌ただしさに紛れて持っていることすら同期に言い出せず、会社をやめたり、何度かの引越しでいつのまにか無くしてしまった。

 

 いや、それは言い訳だともう一人の自分は言う。借り主の子が、妬ましかった。卒業後は留学するからバタバタしていて、いいなと思った。わたしは生きるために働かなければならない。裕福な家庭に育った彼女は、大学を出てからも行きたい国に行く。そんな人の手助けをしないといけないのが、しゃくだったのだと思う。この本を面白いと思えるくらい、生活に余裕があるんだ、と胸がチリチリもした。でも、本を押し付けてきた時の必死な顔も覚えている。大事な本だから、お願い。誰かの形見だったのだろうか? それとも初版本か。でも、そんな大事なものなら、貸さないのではないか。直接会って返すのではないか。わからないけれど。

 

 それがずっと心に引っかかっていた。今では誰の消息も分からないけれど、いつか返す日のために、読んで、持っておこうと思う。