読むのも書くのも暇な人

考えていることや読んだものについて書いていきます。

みんないってしまう

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 作家の山本文緒さんが亡くなった。わたしは15歳くらいから読者で、10代後半は山本文緒作品と一緒に過ごした。あの本たちがなかったら、二十歳を越えられなかったと思う。文緒さんの書くお話はどれもほろ苦くて、不器用な人たちが一生懸命生きていて、細かいところがすごくセンスがよくて、何度も何度も繰り返し読んだ。

 

 毎日毎日現実が辛くて、でも戻ってこなければいけないからファンタジーの世界にはハマれず、そんな中、現実度合いと希望の入り具合が絶妙だった。短編も長編もエッセイもどれもおもしろかった。しばらく体調を崩されていた時期があって心配していて、でも、文緒さんのおかげで本を読む楽しさを教えてもらえたから他の作品を読んで待つことができた。それなのに早すぎる。寂しい。

 

 すばらしい作家は、自分の作品で読者をある意味中毒にしておきながら、けっして囲い込まない。作品がコンスタントに出ない時、読者はその作家の成分を欲して苦しいのだけれど、好きな作品に入っている手がかりをもとに、他の作家の作品の似た成分に吸い寄せられて本が読めるので、また生きていける。

 

 山本文緒作品はそんな、読者の視野や世界を広げてくれるものばかりだった。たくさんのものをもらった。ありがとうございました。サイン会に行ったとき、文緒さんがあまりにも小柄で笑顔がキラキラしていてびっくりした。手もとても小さくて柔らかくて溶けそうだった。本当に、ありがとうございました。向こうでゆっくり休んでたくさん本を読んでください。